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セット版と統合版 夕刊と再販制度の関係から見る新聞販売

新聞

新聞各社

セット版朝刊と統合版(全日版)朝刊の違い

一般紙は基本的に月極購読を前提とした朝刊と夕刊を発行しています。これは朝刊と夕刊がワンセットの商品として販売されていることから「セット版」と呼ばれ、新聞の月極購読料はこの「セット版」を基本としています。

新聞は日本全国どの地域で月極購読されても、その価格は一律です。新聞の月極購読料は新聞紙面の上面片隅に小さな文字で記載されていることから分かりますし、駅売りの新聞にも同様に明記されています。

ちなみに、新聞社は統合版(全日版)という朝刊も発行しています。これは朝刊と夕刊を統合して一つの紙面にまとめた朝刊のことを指します。これに夕刊を一つの発行形態として考えれば、新聞各社は一日に三種類の一般紙を発行していることになります。二種類の朝刊と一種類の夕刊です。

また、夕刊を発行していない地域の朝刊の呼び名は新聞社によって若干の違いがあり、読売新聞社は統合版と呼び、日本経済新聞社は全日版と表現しています。

さて、先ほど月極購読料は朝夕刊セットの価格とお伝えしましたが、このセット版の価格が再販制度で守られている価格なのです。

新聞社が発行している新聞は3種類

再販制度(再販売価格維持制度)とは

「出版社は書籍や雑誌、新聞などの定価を定めて小売りの現場で定価販売ができる」制度のことを再販制度といいます。本来は独占禁止法が再販売価格の拘束を禁止していますが、1953年に定められた独占禁止法の改定により、著作物には再販制度が認められています。

なぜ、再販売という言葉を使うのかを説明します。「ある商品の生産者やメーカーが卸売業者や小売業者へ販売(納品)した商品を、これら中間業者が最終消費者へ再び販売する行為」だから再販売と呼ぶのです。分かりやすく言えば、「商品が最終消費者の手元に届く時に、その価格は定価であること」という意味です。

この再販売価格を生産者やメーカーが小売業者へ指示し、それを遵守させることができる法律のことを再販売価格維持制度(再販制度)というのです。一般的には略して「再販制度」「再販」と呼んでいます。

再販を認められたメディア4品目

新聞と再販制度(再販売価格維持制度)の歴史

本来は自由な価格設定の元で競争原理を働かせることが消費者保護に繋がるのですが、戦後から8年経過した1953年に当時の吉田内閣がいくつかの商品の価格保護を認めました。その価格保護を認められた商品の中に新聞もあったのです。

そして再販制度で認められた新聞の価格とは、朝刊と夕刊をセット商品として月極で販売する「セット月極購読料」だったのです。(参考までに、現在のような朝夕刊セットの販売形態が整ったのは1951年からです。)

新聞販売店の現状とその歴史 新聞が日本に普及した経緯
新聞販売店の経営スタイルを大きく分けると、発行本社管理(社管)、専売店、合売店、地域販売会社の4種類に分類することが出来ます。そしてこれらの違いを説明する前に、新聞販売店の歴史を簡単に解説したいと思います。この新聞社と新聞販売店の歴史を知れ...

別の記事(新聞販売店の現状とその歴史 新聞が日本に普及した経緯)でも書きましたが、新聞は国民の教育水準を高める観点から「社会の公器」として明治政府が積極的に後押しをして、日本全国に新聞社が設立された歴史があります。

そして言うなれば昭和政府は、第二次世界大戦で廃墟となった日本の復興に欠かすことの出来ない国民の教育水準の更なる引き上げを推進するために、再び新聞を活用しようと考えての再販制度だったのです。

新聞各社が新聞販売価格の過当競争に晒されて経営が立ち行かなくなると、せっかく日本社会に根付いた「新聞を大人から子供までが毎日読む」という、国民教育にとても大きな貢献をしている習慣を失いかねません。それを防ぐために吉田内閣は、諸外国に見習って再販制度を日本に導入したのです。(お手本としたのは、イギリスやフランスの法律です。)

海外の書籍の再販制度

新聞特殊指定(新聞業における特定の不公正な取引方法)

1953年施行の再販制度の対象に新聞が加えられましたが、1955年には「新聞業における特定の不公正な取引方法」という法律が制定されました。これは「新聞特殊指定」と呼ばれ、新聞の値引き販売を禁じた法律です。

戦後の日本では新聞の乱売合戦が始まっており、一地方の地方紙だった新聞社が全国展開を狙って各地に支社を設立するなど、まさに何でもありの乱売が目につくようになっていたのです。日本政府はこの新聞各社の乱売合戦に苦い顔をして、不当競争による新聞社の淘汰を懸念したのでした。

新聞は社会の公器として日本を発展させていく上で有益であり、乱売により新聞社の経営が傾くことを嫌った日本政府は「新聞業における特定の不公正な取引方法」(通称:新聞特殊指定)を制定したのです。

この新聞特殊指定は新聞の値段を全国一律と定め、新聞販売店に対して定価販売を強制する法律です。ちなみに、テレビ放送が一般家庭に普及するのは1960年代からで、当時の新聞は戦後の日本が成長するのに必要不可欠な情報媒体だったのです。

新聞業における特定の不公正な取引方法

話のテーマを夕刊に戻します

新聞は基本的にセット版で販売されています。その理由は、統合版(全日版)では一日に朝刊を一回しか発行しないので、原稿の締め切り時間の関係上、紙面の記事の鮮度に影響が出やすいからです。

その中でも、特に顕著に表れる情報の遅れは海外から届くニュースです。午前2時~午前10時という時間帯はヨーロッパ大陸とアメリカ大陸の一日が終わる時間帯で、海外支局からのニュースが日本へ届く時間帯なのです。そして、海外のニュースを主に取り扱うのが夕刊の役目なのです。

原稿の締め切り時間

朝刊には4つの原稿締め切り時間があり、早版、第二版、第三版、最終版です。21時30分が早版完成の時刻となり、その後は翌日2時の最終版完成まで約90分ごとに第二版と第三版の原稿締め切り時間を迎えます。

早版完成後は新規ニュースや特ダネなどがあれば、常に版を組み替えながら次の原稿締め切り時間を迎えるのが、新聞の記事編集方式です。また、夕刊の原稿締め切り時間は早版が午前10時で、13時の夕刊最終版締め切り時間まで第二版と最終版の版の組み換えを行います。ちなみに、夕刊に第三版はありません。

駅の売店などで販売されている夕刊は、基本的に「夕刊第二版」となります。大都市で新聞の発行本社から数十キロ圏内だと「夕刊最終版」が新聞配達員の手で配達されています。家庭のポストへ配達される新聞の上端などに新聞の版が記載されていますので、興味のある方はぜひご確認ください。

「夕刊早版」は統合版朝刊地域の主要鉄道駅などに向けて、輸送時間を考慮して早めに印刷所から販売現場へ輸送される新聞です。早版と名称はついていますが、時差の関係で記事内容的には海外の主要ニュースをほぼ完全に網羅しています。夕刊早版と夕刊最終版の違いで目に付くのは、社会面の国内ニュースです。また、夕刊早版は新聞配達員が配達をする目的で発行されている新聞というよりは、駅の売店などの即売向けなので、かなりレアな新聞と言えます。

新聞の原稿締め切り時間

夕刊存続の意義 再販制度と新聞特殊指定の見直し議論

夕刊は一面記事を読んだあとは、二面の海外記事を読むのが本来の夕刊の読み方です。夕刊の最大の魅力は、時差の関係で朝刊では知ることの出来なかった海外の最新ニュースを読める点なのです。けれども、ライフスタイルの変化で夕刊をじっくりと読む時間がないと考える人も多くなってきました。実際に夕刊の発行部数は減少傾向です。

そして、新聞販売店も夕方の時間帯の新聞配達員を確保するのが難しくなってきているのが現状です。このような状況を考慮して新聞を配達する手間暇だけで物事を考えると、「夕刊が廃止になるのは時間の問題かもしれない」と考えるのが普通です。

しかしながら、ここで思い出して頂きたい言葉があります。それが「再販制度と新聞特殊指定」です。再販制度と新聞特殊指定が制定された1953年~1955年は、朝刊と夕刊がセットで販売されるのが当たり前の時代でした。

そして、もし今ここで夕刊を廃止にしてしまうと、再販制度と新聞特殊指定の見直し議論が政府内で高まる恐れがあり、新聞発行各社は夕刊を絶対に廃止にしないのです。(産経新聞は東京本社版のみ夕刊を2002年に廃止済み。)

「夕刊不要論は新聞不要論へと繋がり兼ねない」というのが、新聞社の考えなのです。夕刊廃止は新聞特殊指定を外されるきっかけになり兼ねず、それを嫌って新聞社は今でも頑張って夕刊を発行しているのです。

セット版と統合版 夕刊と再販制度の関係から見る新聞販売

新聞特殊指定は、守らなけらばならい日本の活字文化に必要不可欠な法律

新聞特殊指定を外されると、新聞業界の長年のビジネスモデルだった定価販売が根底から崩れかねない状況になりかねません。新聞特殊指定のない新聞販売現場の未来想像図は以下のようになります。

〇 縦階段で5階のドアポストへの新聞配達は、階段割り増し料金で月極6000円。
〇 集合住宅の一階ポストへの配達は500円割引。
〇 新聞購読料の自動引き落とし割引制度あり。
〇 販売店から7キロ以上離れた住宅への配達は遠方割り増しで月極7000円。
〇 冬季の豪雪地帯への配達は、冬季割り増しで月極9000円。
〇 大規模集合住宅への配達は、最安値の月極2500円。

また、新聞各社は大都市部で効率的に収益を上げながら、その収益を過疎地域の個別配達網維持に回しているのが実情です。つまり、新聞特殊指定がなくなると、居住地域間で情報格差が生じるということです。

これは赤字体質だった日本国有鉄道(国鉄)が民営化された結果、地方の赤字路線が軒並み廃線になったことと、同様のことが新聞配達の現場で起きるという事です。

販売価格保護の必要性

母国語で大学院レベルの教育を受けられる国は、世界中に僅かしかありません

大学や大学院は高等教育を受ける場ですが、母国語で大学院レベルまでの教育を受けることが可能な国は僅かしかありません。なぜならば、授業中の会話は母国語でよいのですが、テキストや文献が母国語に翻訳されていないからです。

例えば、フィリピンや韓国の大学院で使われている教材は、その大半が英語で記述されています。これはタガログ語や韓国語の語彙(ごい)が少ないことに起因します。

言語文化は一朝一夕に築かれるものではなく、先人たちが書物という形で後世に知識を伝播することによって、脈々と受け継がれながら発展するものです。日本では「日本書紀」や「源氏物語」といった古来から日本に存在する書物が証明するように、活字を大切に保存してきました。その蓄積が日本という国の国力となっているのです。

「世界中のありとあらゆる文献を日本語に翻訳して出版する言語文化を構築し、国民の大多数がそれを消化できるだけの活字教育を受けている」という点が、日本が世界的に見てあらゆる分野において発展している要因なのです。その日本の発展の基礎となるのが、新聞を代表する「日常から活字を消費する文化」なのです(・∀・)

世界の日刊紙発行部数 成人1000人当たりの部数

みんなが大好きな新聞 「メディアの中で信頼度は抜群」

新聞は裏付けの取れない推測記事は書きませんので、記事の内容に関しては信頼度が抜群です。さらに新聞の記事は、高給で雇われた東京大学や京都大学などの有名国立大学を卒業された方々によって執筆されているので、素晴らしい日本語の文章で書かれていますまあ、新聞は言葉巧みに論点をすり替える記事を書くことも稀にあります。

具体例としては、新聞社が推薦したいと考えている候補者が選挙で当選すると、「民意が反映された選挙結果だと思う」というような文調で最後を綴りますが、そうでない候補者が当選した場合は、「選挙の結果はこうなったが、少数派の意見を蔑(ないがし)ろにする現政権は本当の民主主義と言えるのか?」という感じで文章を閉じたりします。その違和感を感じさせない文章構成はさすが新聞だなあと感心することもあります。

そうはいっても新聞は、高度な言語文化を受け継ぐために必要不可欠だと思いますので、個人的にはこれからも朝刊と夕刊が宅配される日本であり続けて欲しいと願っています。

主要新聞の購読料金のご案内

朝夕刊セット版 (セット版)(全日版) 統合版(朝刊のみ)
読売新聞 1か月 4400円(税込) 1か月 3400円(税込)
日本経済新聞 1か月 4900円(税込) 1か月 4000円(税込)
朝日新聞 1か月 4037円(税込) 1か月 3093円(税込)
毎日新聞 1か月 4037円(税込) 1か月 3093円(税込)
産経新聞 夕刊なし 1か月 3034円(税込)
東京新聞 1か月 3343円(税込) 1か月 2623円(税込)
北海道新聞 1か月 4037円(税込) 1か月 3353円(税込)
中日新聞 1か月 4037円(税込) 1か月 3086円(税込)
西日本新聞 1か月 4037円(税込) 販売店にお問い合わせ下さい
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