終身雇用制度という言葉が日本社会から徐々に消え去ろうとしています。日本の昭和時代は高度経済成長期とバブル経済の時代でした。1970年代後半から始まった高度経済成長はバブル経済を産み出し、やがてそのバブル経済は崩壊してしまいました。
1990年代初頭の日本は、世界中が驚愕するほどの好景気だったのですが、バブル経済の終焉と共に不景気の波が日本に押し寄せてきたのです。銀行が倒産したり大手証券会社が倒産したりしましたが、企業の連鎖倒産は日本人にとって衝撃的な出来事でした。
昭和時代の日本人の働き方と賃金の概念
昭和の時代では、「働く」ということは正社員で勤務することを意味していました。公務員として働けば65歳の定年まで働けることを保証されていますが、民間企業で働いても終身雇用制度という概念の元、誰しもが定年の65歳まで働くことが出来たのです。
賃金に関しては月給制が基本で、夏季と冬季の年二回の特別賞与が支給される事が日本企業の習わしでした。当時は年俸制の企業など皆無に近く、固定給+残業代と年二回の夏季賞与と冬季賞与がサラリーマンの給与明細書に記載されている項目だったのです。
しかし、バブル経済崩壊後の日本は「失われた20年」と言われるほど、長期の経済成長低迷期に突入します。企業も生き残る道を模索し始め、年俸制を導入したり歩合給や成果給などの欧米型賃金体系を導入する企業も増えてきました。こういった年功序列による定期昇給を廃止する動きは、日本企業の場合は「賃金の上昇を抑えようとする傾向」の表れなのです。
日本の企業は間違った認識で給与体系を変えようとした
そもそも、欧米では机単位で給与が決まります。「この机の上にある仕事をこなせる人(能力のある人)には年俸800万円を支払います」といった感じで、業務量や仕事内容によって賃金が決まっています。これが年俸制の基本概念です。つまり、仕事の質と量が事前に決まっていて、それに対しての対価として値段(年俸制給与)がついているのです。
しかし、日本企業が導入した「なんちゃって年俸制」は基準年俸が600万円で、年に一度の業務査定で大変よくできた人には年俸800万円、未熟と判定されれば年俸500万円など、業務後に年俸が変動するのです。これは本来の年俸制の賃金形態の目的とは異なります。
業務内容に見合った人材を選ぶのは企業側です。企業側が人材登用を見誤れば、その人材は机の上の仕事を満足に消化出来ない結果となります。そして、いうなれば企業側の人選ミスを労働者側の賃金に責任転嫁する行為が、上記のような日本企業が導入した「なんちゃって年俸制」なのです。
究極の年俸制企業とはプロ野球球団
これをシビアに実行している企業が日本にもあります。それはプロ野球球団です。契約時にその年に支払う給与は確定しており、賃金に見合っただけの数字を残せていない場合は、翌年以降の契約に影響します。翌年以降の雇用の保障はありませんが、その年の職と賃金は約束されているのが、プロ野球球団という企業体なのです。
最高の状態の選手を起用して「ペナントレースを制覇し日本一になる」ことを、どのプロ野球球団も目標としています。強い球団になるためには高額年俸だけが全てとは言えませんが、プロ野球球団内の労働者であるプロ野球選手のモチベーションやプロ意識を支えているのは、やはり歩合給の部分もあると思います。
球団によっては、タイトル料として契約更新時にボーナスを支給しますし、次回の契約更新時には当年の成績が全てとなります。選手も球団も納得するまで交渉を重ね契約更新をしますが、一般の日本企業が導入している成果給や歩合給に関しては、ちょっと誤った認識をしているようです。
歩合給に関して、日本の企業は誤った認識を持っている
そもそも歩合給を導入すれば、企業側が支払う給与総額は増えるのが欧米では普通です。歩合給は決して賃金を抑制するために導入する制度ではありません。
これが歩合給(成果給)の本来の目的であり概念です。歩合給を車で例えるなら、ターボやスーパーチャージャーと言えます。より多くの燃料を消費する見返りとして、目的地へ早く到達することが出来る。これは車を運転する人なら誰しもが理解していることです。燃費を犠牲にする代わりに、その対価として速度を追求する訳です。
しかし、日本企業の場合はその歩合給の設定の仕方に問題があります。「ノルマ」を超えた分に関しては歩合給が発生するといった設定がなされていたり、歩合給に上限が設けてあることがあります。賃金を抑制する目的で歩合給を導入している企業では、このようなケースが大半です。
賃金抑制モデルとしての歩合給(成果給)の事例
歩合給導入前の基本月給が30万円だった場合、歩合給導入後は「基本月給18万円+歩合給」といった感じで基本給を下げた状態で歩合給を導入するケースがあります。これでは給与支払い側の企業が有利になるようにゲームのルールを変更したに過ぎません。
自然吸気3.0リッターエンジンを1.8リッターのターボ付きエンジンに載せ換えたようなもので、これで雇用主からドヤ顔をされても労働者は困惑するだけです。当然ですが、1.8リッターターボエンジンの方が故障する可能性は高くなります。負荷が常にかかる状態に長く晒されれば、車の部品と同様に壊れてしまいます。労働者は部品ではありません。
本来なら、基本月給30万円を維持した状態で歩合給を上乗せするのが、欧米式の歩合給導入方法なのです。
そもそも「ノルマ」という考え方がおかしい
「ノルマを課す」「ノルマを与える」という言葉がありますが、これは三流の企業経営者が好む企業運営方針です。「低い固定給」「歩合給」「ノルマ」。これら三つの言葉が合致する企業の場合、その会社は昭和時代の古い経営理念のまま運営されていると言えます。最終的には社会に貢献する会社しか存続できないのですが、ノルマという旧態依然とした管理体制を社是としている時点で時代遅れなのです。
「歩合給」を導入している企業では「ノルマ」という数値目標を社員に課しているケースが多いのですが、これは社員の労働を管理する企業側が、管理者としての無能さをさらけ出しているのと同じなのです。「外回りの社員にはノルマを課していないと遊ばれてしまう」「ノルマを課さないと新規顧客を獲得してこない」という経営幹部の話をよく耳にしますが、それはきめ細かな業務指示や戦略に基づいた指導を行っていないから社員が結果を出せないのであって、「管理体制の不備」を社員へ「ノルマ」という形で丸投げしているのです。
携帯電話やパソコンなどがない昭和時代には、社外に出ている社員の業務を管理する方法としてノルマは有効だったかも知れません。しかし、現代ではGPS機能付きのスマートフォンを持ち歩き、ノートパソコンで情報を共有することも可能なのです。つまり、目の行き届かない社員の業務を離れた場所からでも常に把握し管理することが出来る時代なのです。通信機器やITを活用すれば幾らでも業務の進捗状況などの情報共有が可能となった現代において、「ノルマという業務管理手法」は時代遅れなのです。
社員の労働意欲を掻き立てる方向で歩合給を活用したい
今回の記事では歩合給(成果給)の悪い形での導入例を解説しました。社員のモチベーションを高く維持するために、歩合給が効果的なことは認めます。結果を出せば給与に即座に反映される賃金体系は、がんばって働く動機付けとなりますから、やる気のある社員にとっては魅力的な制度かも知れません。
しかしながら、このような賃金体系が労働者に受け入れられるかどうかは、平成生まれの若者がこれから評価を下してくれると思います。筆者が考えるには、日本文化に馴染める制度なのかという観点から考察する必要があると感じています。
閲覧者(^ω^) 「ところで、あなたの雇用形態はどうなっていますか?」
筆者(・∀・) 「時給1300円の派遣ですが、それが何か?」
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