中古車販売雑誌やインターネットの中古品販売サイト、もしくは中古の商品を販売している店頭などで表示価格が「ASK」と表記されているのをご覧になられた方は多いと思います。
ASKとは英語辞書で調べると「尋ねる、質問する、依頼する、求める、頼む、招待する」といった意味だと書かれていますが、販売現場では果たしてどのような意図でASKという価格表示を行っているでしょうか? この記事では「販売の歴史」を振り返りながら、USED商品(中古品)の販売現場で目にする「ASK」「応相談」「お問い合わせ下さい」といった価格表記の真意を解説します。
日本国内の販売の歴史
そもそも商品を販売しているということは、売り手側は商品を売りたいのです。それなのに消費者の手を煩わせてまで価格を尋ねさせるのはなぜでしょうか?
江戸時代までは店頭に商品を置かず、店先の商人がお客様から購入希望商品の要望を受けて、店の裏に置いてある商品を持ち出して販売する手法が一般的でした。
そして「現金掛け値なし」の店先売りが庶民から画期的な商法だと評判になり、商売が大繁盛して財を成したのが越後屋(現在の三越百貨店)といった、歴史の教科書にも載っている有名なお店なのです。紀伊国屋や越後屋などはテレビの時代劇でも頻繁に登場する江戸時代の商店ですが、それらの商店(住友家や三井家など名だたる財閥)の財を築くことが出来たのは、現金掛け値なしの「明朗会計」が消費者から受け入れられたからでした。
上記の事例からも、「消費者は商品と価格が一体となって販売されている状態を好む」ということは歴史が証明しているのですが、商品が店先に並べてあっても価格が伏せられている部分に、何やら販売者側の意図が見え隠れする気がします。
世の中には小売業の経験がない方も多いと思いますので解説しますが、商売に必要な要素は「仕入れと値付け」です。新品の製品はメーカーから仕入れ、中古品の場合は仕入れルートが多種多様となりますが、新品でも中古品でも仕入れた商品の原価に利益を上乗せして販売する事が商売の基本です。
そして明朗会見の価格表示はなく、「応談」「応相談」「ASK」と価格が伏せられているケースの殆どは中古品を販売している場合に多く見受けられます。この事からASKの意図が見え隠れするのですが、この記事では消費者側の視点と販売者側の視点の両方からASK価格の本当の意図を探ってみたいと思います。
一般消費者側の立場から「販売」を考えてみます
フィギュアや車・バイクなど製造メーカーより発売されていた商品が既に製造中止となっている場合でも、それらの製品を欲しい(購入したい)と思う需要は意外と多く存在しており、多種多様な販売チャンネルで中古商品は取引されています。
それらをコレクションしているマニアにとっては、探していた品が販売されているのを偶然にも見つけた場合は、すぐにでも購入しないと売り切れてしまう恐れがあるので気が気ではありません。
しかし、値札や販売価格を見た時に「応相談」「ASK」と表示されていると、自分の予算の範囲内で買えるか不安になってきます。また、馴染のないショップなどで尋ねても一見さんと思われて、想定以上の高値を提示されたらどうしようと勘ぐってしまうこともあります。
また、「値引き交渉は煩わしい」と考える人も多く居られますので、「単純明快に価格を表示されていれば楽なのに」と感じる消費者が一般的です。
家電量販店では「当店通常価格55,000円のところをセール特価で販売中!」と店員さんに思わず声を掛けたくなるポップ表示を目にすることもあります。このケースの場合は価格の上限が分かっていますし、全国展開しているような家電量販店が顧客を販売価格で差別するようなことはないので、こちらから尋ねれば誰にでも同じ価格を提示してくれると分かっています。
ASK価格表示に対する消費者側の解釈
〇 一押しの商品だから値段を提示していない。
〇 安さを強調した販売手法。
〇 冷やかしや一見さんお断り。
〇 消費者の購入意欲を探るため。
〇 ライバル店との価格競争を出し抜くため。
〇 安値販売でメーカーからお叱りを受けるのを避けるため。
〇 希少価値を強調する販売手法。
大抵の場合は、このようなことをASK価格や応相談価格からイメージされていると思います。しかし、冒頭でも申し上げたように、商売とは「原価+利潤の上乗せ=販売価格」です。
お寿司屋さんでは仕入れた魚の値段の三倍をお寿司の値段に設定するのが一般的です。スーパーなどで販売されている日用雑貨や食品でも、長期保存が可能な商品は「売価の半値が仕入れ値」と考えて頂ければ間違いありません。
スーパーやお寿司屋さんは無料奉仕で仕事をしているのではありませんから、販売価格に売り手側の利益を含むのは当然のことです。また、消費者側もそのことは承諾済みで提示された価格でサービスを購入します。さて、ここまでは消費者側の視点から見たASK価格や応相談価格について述べてきましたが、ここからがこの記事の核心となります。
ASK販売価格を提示する販売者側の都合
販売価格を伏せるという販売手法は、「原価」もしくは「利潤の上乗せ幅」といった販売者側の都合を商品購入者以外に知られたくないということなのです。販売価格をASKなどで非表示にしていると、原価や利益を不特定多数の人に推測されることを避けることが出来るのです。
ここで少し考えて頂きたいのですが、数学では「X+5=7」「10-3=回答欄」というように、三つの要素の内、一つだけを伏せた形だと容易に回答を推測できます。商売の場合は「原価・利益・販売価格」が数学的な要素となりますが、販売価格は通常は明示されていますので、原価や売り手側の利益幅は上記で述べたように概ね推測可能です。
販売者側が販売価格を伏せてまで隠したい事実
では、なぜ江戸時代の商売でも実証されている「現金掛け値なし」の店先売りの利点を捨ててまで、販売価格を隠すのでしょうか? 商品を売って利益を手にすることを目的として販売業(小売業)を営んでいますが、敢えて不利な販売手法を選択せざるを得ない理由があるのでしょうか?
それは販売価格を公表すると、商売の基本である「原価・利益・販売価格」の三要素の内で、原価と利益を推測される不都合が販売者側に生じるからなのです。
閲覧者(^^) 「えっ? 原価も利益もあくまで推測だし、商売人が儲ける事は悪いことなの?」
中古車販売店(`Д´) 「そうじゃないんだよ。原価を知っている人間が世の中に一人だけ必ずいるんだよ。」
閲覧者(^^) 「それは誰ですか?」
中古車販売店(`Д´) 「うちのお店に中古車を売った人だよ。」
閲覧者(^^) 「その人に販売価格を知られたら都合が悪いの?」
中古者販売店(`Д´) 「そりゃそうだよ。近所の馴染の客や顔見知りから15万円で下取りした中古車を70万円で販売していると知られたら、さすがに気まずいだろう。不当に安値で買い叩かれたと憤慨する人も居るからね。」
閲覧者(^^) 「じゃあ、価格を表示してある中古車は利益が少ないのですか?」
中古者販売店(`Д´) 「そうとは言い切れないけど、知人や知り合いから15万円で引き取った中古車を20万円で売る場合は、ASK価格は使わないよ。薄利多売をアピールする絶好のチャンスだからね。」
中古者販売店(`Д´) 「だから、中古車業界は割高でもオークションで中古車を仕入れるのさ。そうすればこの人にだけは絶対に販売価格を知られたくないといった、しがらみ等の問題が生じないからね。」
まとめ
一般消費者は販売価格を伏せられている商品を手にした時に、買い手側の勝手な解釈で「得をした」とか「自分は特価で買えた」と感じているかも知れませんが、「ASK」「応相談」などの価格表示は決して安値を意味している訳ではないのです。
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